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噺家差し入れ考

仕事柄、公演や芸人さん、アーティストに「差し入れ」をする機会がよくあります。

高ければいいというわけでもなく、皆が知っている老舗だからいいというでもなく、
「ちょっと気の利いたもの」を差し入れるのが興行界では「いいね!」です。
実際、こちらが戴く場合でも「あ、これは!さすが〜○○さん!」などと思うわけでして。
戴いておいて勝手なもんです。
たかが差し入れ、されど差し入れ、なのであります。

この差し入れで、実はわたくし昔何度か失敗致しました。

まだ落語の興行を始めて間もない頃
お酒が好きな師匠に地方の旨い日本酒(四合瓶)を公演後にお渡ししたのです。
その師匠が「ありがとう」と快く受け取ってくださったので
調子に乗って何度か同じようにお酒をお持ちしました。
その時は、日持ちもするし「ちょっと気の利いたお酒」のつもりで
自分で得意になっていたのです。

ところがその後、公演の現場を多く担当するようになって気がつきました。

噺家さんは着物や草履が入ったガラガラ(キャリーケース)を引っ張っている。
大きなリュックを背負っていることもある。
終わって、打ち上げにも行く。そして電車で帰っていく。
あー、お仕事帰りのくたびれているこんな大荷物の人たちにわたしゃ
重いワレものを持たせて帰していたのか…と。

そしてよく見ていると、
時には戴きもののワインやら日本酒やらの瓶を何本もぶら下げている方もあり。
これじゃあ帰り道が怖くて、打ち上げで安心して酔っぱらえませんわね。

ある公演の打ち上げで出演者に聴いてみました。
「現場でお酒の差し入れって多くないですか?」
その場にいた数人の噺家さんたちは声を揃えて「多い!」。

「お気持ちはとってもありがたいの。
酒を呑まないならお断りできるけど、吞ん兵衛だって知れてるでしょ。
でも実は家では休肝日にしてて呑まないの。
だから家が戴き物のお酒でちょっとした酒屋みたいになってるんだよね」

「特別いいお酒を頂く機会が多いんだよね。
生酒とか、要冷蔵とか、賞味期限がある高級なのを。
でもさ、毎晩家にいてお酒呑めるわけじゃないじゃない。
(いちおう仕事してるしサ)
こうやって打ち上げでたくさん呑んで帰ったら家で呑まないでしょ。
結局呑みきれなくて、申し訳なかったことがあるよ。
かと言ってさあ、わざわざ選んでくださったとっておきの品を
他人(ヒト)さまにあげていいもんかとも思ったりしてねぇ」

「たまに一升瓶を持ってきてくださる方がいて。
お客様も重たいのをよく持ってきてくださったなあと思うけど
こちらもね、同様だよね。さすがに帰りしんどいやね」

なるほど、なるほど。おお、一升瓶というツワモノまで。
やはりなぁ、わたくしは、やらかしてしまっていたのであります。

また、泊まりがけの地方公演で
お酒や土地の生ものをお客様や主催者から頂くことも「あるある」だそうで、
ガラガラ+両手にお土産の大荷物。
それを持って新幹線や飛行機移動も大変ですが
たまに地方から別の地方へ移動の時もあり
さすがに生ものはどうしたものかと途方に暮れたそうで…。
そうか、まっすぐ家に帰るとは限りませんもんね。
かといって、わざわざご用意してくださった皆さんのお心のこもったものを
お断りするなんてできないですし…。

「ほかに困ったなって差し入れありますか?」と聞くと
「けっこうな量の生菓子かなぁ」
あーこれもわたくし昔やらかしました。
そうか、「壊れ物」の部類で、おまけに日持ちがしないのか。
そして実は甘いものがあまり好きじゃない…という方も(苦笑)。
自分が好きだからって、相手の好物なわけじゃないもんなぁ…トホホ。

実際、開演前に「皆さんで」と戴くこともありますが
実は本番前に召し上がらない方、意外といらっしゃるんです。
(お腹いっぱいになると喋りづらいとのこと)
落語の現場は、出演者が開場間際に楽屋入りして、
終演したら速やかに楽屋を出ますので
慌ただしくて戴く時間がないという現実でもあります。

ただこれ、何日間かやっているお芝居なんかの時は別ですよ。
出演者の他に演出部、照明、音響、制作…とスタッフの人数もそれなりにいますし、
ケータリングのテーブルに美味しそうな差し入れがあると、皆さん喜びますから。
(あ、でも千穐楽は撤収がありますから、遠慮したいですね)
落語の現場は出演者+スタッフ数名というこじんまりな上に
滞在時間が短くて慌ただしいので、ちょっと特別なんですよね。

とにかく噺家さん方曰く
「お足払ってお越し頂くだけで、もう充分ありがたいんですよ」とのことでした。

それでもなにか「私の気持ち」をお渡ししたいな〜という時は
軽くて小さくて…なものがよいかもしれませんね。
例えば宝塚のファンクラブみたいにお手紙とか?
そう言えばキタナヅカってのもありましたけどね。

※以上は、いがぐみが伺った一部の噺家さん方の声です。
「おらぁ、なんだってありがたく戴くよ!」という方も
もちろんいらっしゃると思いますので、ほんのご参考までに…。